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前立腺がんの治療

前立腺がんと診断されたら…

もしもあなたやあなたのご家族が前立腺がんと診断されたら…

すぐに落胆することはありません。

前立腺がんと診断されて、お元気に社会復帰されている方が大勢いる現実を知ってください。男性の10人に1人は一生の間に前立腺がんに罹患するといわれています。特に欧米での高い罹患率が知られており、米国では男性のがんの中での罹患数は1位となっています。わが国でも、生活スタイルの欧米化で前立腺がんの罹患数の増加を認めていて、男性のがんのなかでは胃、肺、結腸、肝臓、直腸に次いで6番目の罹患数となっています。

さらに前立腺がんは、他のがんとは違い死亡率の低いがんなのです。

前立腺がんの低い死亡率の理由は以下の通りです。

1:血液検査(PSA)で早期発見が可能

血液中のPSA(前立腺特異抗原)を測定し、4.0ng/ml以上の場合前立腺がんの存在が疑われます。正常の前立腺でもPSAは産生しているのですが、前立腺がんの細胞はPSAを過剰に産生するため血液中のPSAが高値になるわけです。しかしPSAが高値になる疾患として前立腺炎、前立腺肥大症などがあり、前立腺がんと診断するためには前立腺の組織を採取する前立腺針生検が必要となります。

2:他のがんよりも進行が遅い

多くの前立腺がんは進行が遅く、そのため高齢者に前立腺がんが発見された場合、時によっては無治療で経過を見る場合があります。

3:治療法が多様で個人の状態に応じた治療法の選択が可能

前立腺がんの治療法は、上記の無治療をはじめとして、ホルモン療法、放射線療法、手術療法、高密度焦点式超音波治療、化学療法などがあり、いずれも適切な時期に行えば非常に有効で、社会復帰も可能となります。

では前立腺がんと診断されたら…

まず、あなたやあなたのご家族の前立腺がんが「限局性前立腺がん」か「進行前立腺がん」かの診断を受けてもらってください。

「限局性前立腺がん」とは、がんが前立腺の内部にとどまっていてリンパ節や骨などに転移していない状態のがんのことです。逆に「進行前立腺がん」とは、がんが前立腺の被膜を超えて広がっていたり、リンパ節や骨などに転移しているがんのことをいいます。「限局性前立腺がん」か「進行前立腺がん」かを評価するために、一般的にリンパ節の検査にはCT検査を、骨の検査には骨シンチを行います。

なぜ限局性か進行性かを問題にするかといえば、これらで治療法が大きく異なるからです。限局性前立腺がんの場合、放射線療法や手術療法、高密度焦点式超音波治療など前立腺局所の治療のみでがんが根治(完全に治る)する可能性があります。しかし、進行前立腺がんの場合は局所の治療のみでは体内(リンパ節や骨)にがん細胞が残存しますので、全身に効果のあるホルモン療法や化学療法を選択します。


限局性前立腺がんの治療法

(1) 無治療

他の重篤な疾患をお持ちの高齢の方で限局性前立腺がんが見つかった場合、その前立腺がんが生命に影響がないと判断されればときに無治療で経過を見る場合があります。

(2) ホルモン療法(内分泌療法)

前立腺がんは、男性ホルモンの存在によって増殖します。そのため、抗男性ホルモン薬で男性ホルモンの分泌や働きを抑えることによって、前立腺がんの増殖を抑制することができます。前立腺がんの細胞が増殖をやめて冬眠状態になるのです。また、ときにはホルモン療法のみで、前立腺がんが消失する場合もあるようです。しかしながら多くの場合長期のホルモン療法を続けていると、ホルモン療法では抑制されない前立腺がん(ホルモン不応性前立腺がん)が発生することも知られています。副作用として、男性ホルモンの抑制による勃起障害、性欲減退、女性化乳房などがあります。

(3) 放射線外照射

放射線を前立腺に照射することにより前立腺がんを死滅させる治療法です。特に入院は必要なく外来通院で約1ヵ月半の治療になります。特別麻酔も必要なく体にメスを入れるわけではないので、外来通院のみで治療が可能で、合併症のある方や高齢者の方に適しています。副作用として直腸潰瘍、皮膚潰瘍、勃起障害などがあります。

(4) 小線源療法(組織内照射法、ブラキテラピー)

小線源療法とは、放射線を発生する小線源を前立腺の内部に50〜100本埋め込むことにより、前立腺がんを死滅させる治療法です。小線源を埋め込むために3〜4日間の入院が必要です。わが国では設備の整った限られた施設のみで行われています。副作用として、放射線外照射よりは頻度は少ないものの、放射線が照射されるため、同様に直腸潰瘍、皮膚潰瘍、勃起障害などがあります。

(5) 手術療法

限局性前立腺がんの根治的治療として、これまで最もスタンダードとされてきた方法が前立腺全摘術です。これは全身麻酔下に下腹部を切開し前立腺を摘出し、その後膀胱と尿道を吻合する方法です。前立腺の周囲には太い静脈があるため、術中大量出血の可能性があり、前立腺の両脇を勃起神経が走行しているため、手術後に勃起障害が発生することが知られています。また前立腺の先端部には尿道括約筋があり、これが傷つくことにより術後尿失禁が発生することがあります。しかしながら、最近の前立腺全摘術の技術向上により、これらの合併症は以前に比べて非常に少なくなっています。手術時間は1〜3時間かかり、入院は2〜4週間必要です。施設によっては内視鏡で前立腺を摘出することにより体の負担を軽減させているところもありますが、全身麻酔を行うことや出血の危険性から合併症のある方や高齢者の方には適応にならない場合があります。

(6) 高密度焦点式超音波治療(HIFU、ハイフ)

HIFU (High Intensity Focused Ultrasound、高密度焦点式超音波) 治療とは、強力な超音波を一か所に集中させて、焦点領域だけを60度から90度に加熱し、組織を熱凝固、壊死させることによってがんを治療する方法です。肛門より器械を挿入し治療しますので、メスを用いないので出血もなく、入院期間は4日間と短期間です。麻酔も「腰椎麻酔」といって下半身麻酔で行い、心疾患や呼吸器疾患のため、全身麻酔による手術療法が受けられない方にも治療が可能となっています。その治療効果は、放射線療法や手術療法と同等とされています。欠点としては、まだ自費診療であることと限られた施設でしか行われていないことがあります。

いわき泌尿器科では、HIFU療法を2006年6月に福島県で初、東北で2番目に導入しています。詳しくは別ページの高密度焦点式超音波 (HIFU) 治療 をご覧ください。

進行前立腺がんの治療法

(1) ホルモン療法(内分泌療法)

ホルモン療法は全身のがん細胞に対して作用しますので、リンパ節や骨に転移している進行前立腺がんの治療法として用いられます。問題はしばらくホルモン療法を行った後に発生するホルモン療法では抑制されないホルモン不応性前立腺がんの存在です。この場合は用いる抗男性ホルモン剤の種類を変更したりステロイド剤を投与したり、化学療法を行ったりします。

(2) 化学療法

前立腺がんでは、化学療法(抗癌剤)はその効果の弱さから、単独で用いられることはありません。しかしホルモン療法後にホルモン不応性前立腺がんを認めた場合、ホルモン療法に抗癌剤を組み合わせて治療することにより効果的な場合があります。

(3) 放射線療法

放射線療法では転移した前立腺がんをすべて治療することはできませんが、骨に転移し痛みが出現している場合にその部位に放射線を照射することにより、痛みの改善には大きな効果が期待できます。

以上簡単に前立腺がんの主な治療法を前立腺がんの進行度によって説明してみました。いずれの治療法もそれぞれの患者さまの状態にあわせて治療する必要がありますので、ご不明な点がございましたら主治医の先生にお聞きになってみてください。また、いわき泌尿器科ではセカンドオピニオンも広く受け付けておりますので、他院のかかりつけであっても、お気軽に外来受診してみてください。またメールでのご相談も随時受け付けております。

<コラム担当> 医師 新村浩明