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腎不全

わが国では、透析を受けられている方が25万人を超え、さらに毎年1万人以上増えています。つまり国民の500人に1人が透析を受けていることになります。また透析にかかわる医療費が1兆円を超え、日本の総医療費が約30兆円であることを考えると、いかに透析に関する医療費の割合が大きいかがわかります。今回このコラムでは、このますます増加する腎不全の概略について説明したいと思います。

腎不全とは

腎不全とは腎臓の機能が低下した状態のことをいいます。つまりなんらかの原因により腎臓が、正常な尿を作らなくなってしまった状態です。腎不全の経過により急速に進行するものを急性腎不全、緩やかに進行するものを慢性腎不全といいます。腎不全により正常な尿が出なくなると様々な身体症状が出現し、さらに腎臓機能がある基準値以下に低下すると、末期腎不全といわれる自分の腎臓では生命を維持できなくなる状態になります。この場合、透析療法を受けるか腎移植が必要となります。

腎不全の原因

急性腎不全の原因

(原因と腎臓の位置関係で以下の3つに分類します)

  • ・腎前性(出血、脱水、心不全、ショック)
  • ・腎性(急性糸球体腎炎、薬剤性腎障害)
  • ・腎後性(尿路結石や尿路腫瘍、前立腺肥大による尿路の閉塞)

慢性腎不全の原因

(透析になる原因として多いのは、糖尿病ついで慢性糸球体腎炎の順です)

  • ・全身疾患(糖尿病、高血圧、自己免疫疾患)
  • ・腎炎(糸球体腎炎、ネフローゼ、巣状糸球体硬化症、IgA腎症)
  • ・遺伝性疾患(多発性のう胞腎、アルポート症候群)
  • ・その他(尿路結石、腎盂腎炎、逆流性腎症、薬剤性腎障害)

末期腎不全の症状

腎機能が正常の10〜20%以下まで低下し末期腎不全の状態になると、下記の種々の症状が出現します。

a. 尿毒症

腎臓の働きの一つは、体内の不要な物質である尿毒素を尿として体外に排出することです。このため腎機能が低下した場合、尿毒素が体に蓄積してしまい尿毒症といわれる、吐き気、めまい、頭痛、食欲不振、疲労感などの症状があらわれます。

b. 水分バランスの異常

腎臓の機能が低下すると、尿量が減少します。そのため尿量以上に飲んだ水分は体に貯留し、むくみや血圧の上昇がおこります。適切な治療が行われなければ体重は摂取した水分の量だけ増加することになり、放置すれば心臓に負担がかかりまた呼吸困難に陥る場合もあります。

c. 電解質異常

ナトリウム、塩素、カリウムやカルシウムなどは電解質といいます。腎臓はこれらの電解質の濃度を一定に保つように調整する役割を持っています。腎臓の機能が低下した場合、これら電解質濃度の異常をきたすことになります。生命的に最も危険なのが、カリウム濃度が異常に上がった状態である高カリウム血症です。高カリウム血症を放置すると、不整脈があらわれついには心臓が止まってしまいます。

d. 酸塩基平衡の異常

腎臓は体が過度にアルカリ性になったり酸性にならないように調整する機能を持っています。腎臓の機能が低下すると、この調整ができなくなり体が酸性に傾きます。

e. 腎臓から分泌されるホルモンの異常

腎臓から分泌されるホルモンの異常によって高血圧になったり、貧血になったりします。また、ビタミンDが活性化されないためカルシウムのバランスが異常となります。

末期腎不全の治療

腎不全が進行し末期にいたると前述の症状のため満足した日常生活が送れなくなるだけでなく、生命の危険も生じます。そのために機能の低下した腎臓の代わりとなる治療法が必要となります。その一つが透析療法であり、もう一つの方法が腎移植です。

透析療法とは

透析療法とは、腎不全によって体内に蓄積した老廃物や水分を除去する方法の総称です。透析療法には大きく分けて血液透析と腹膜透析とがあります。

血液透析:

血液を透析装置のダイアライザーといわれる高分子膜の中を循環させることにより、水分と老廃物を除去し電解質を調整した後、再び血液を体内に戻すことにより、腎不全の状態を改善させる方法です。一般的に週に2〜3回透析センターに通院し、1回約4時間の血液透析を行います。

腹膜透析:

腹腔内(お腹の中)にチューブを留置し、そこから透析液を注入することにより腹膜といわれるお腹の中の膜を介して水分と老廃物を除去する方法です。透析液を1日4回交換する方法(CAPD)と夜間のみ交換する方法(APD)があります。

透析療法では、透析を行っている間は尿毒素といわれる老廃物を除去することができますが、透析を行っていない間は尿毒素が体内に蓄積します。そのため常に体内に尿毒素が存在することとなり、長期間の透析の継続によりこの尿毒素がさまざまな合併症を起こすこととなります。また腎臓は老廃物を排泄するだけではなく、ホルモンの産生も行っています。そのためこのホルモンの低下も様々な合併症の原因となります。

透析生活を送る上で、長期間よりよい状態ですごすためには、この透析合併症をいかに減らすかが鍵になってきます。そのためには適切な透析(透析回数と時間)、適切な食事、適切な薬物療法が必須となります。これらの適切な治療法は、透析を受けられている方の全身状態により、各個人によって異なります。そのため定期的な採血やレントゲン検査を行い、全身状態を把握し各個人に合った治療法を選択します。典型的な側腹部から下腹部にかけての疝痛発作と血尿がある場合は、尿管結石を疑い以下の画像診断を行います。

透析合併症

a. 動脈硬化:

透析療法を受けている患者さんは、一般の方より動脈硬化が進行しやすいことがわかっています。実際に透析患者さんの死亡原因の半分以上は、動脈硬化に起因する心臓病や脳卒中が占めています。その原因として考えられているのが、高血圧や高脂血症です。また血液透析自体が動脈硬化を促進させるように働いているとも考えられています。

b. 骨障害:

透析が長期間に及ぶと骨が弱くなります。これは腎臓が骨の材料であるカルシウム、リンの体内のバランスを調節するビタミンDの活性化に大きくかかわる臓器だからです。長期の透析療法でカルシウムリンのバランスの異常が続けば、腎性骨異栄養症といわれる骨が薄くなったり変形することがあります。

c. アミロイド症:

身のさまざまな組織にアミロイドといわれる物質が沈着することによりおこる病気です。特に関節や靱帯に沈着した場合は、運動障害がでたり痛みが出たりします。

d. 感染症:

体の中の老廃物が蓄積した状態では、免疫細胞の機能が低下し、感染症に対する防御力が低下します。健常な方と比べて風邪などの感染症にかかりやすく、適切な治療をしないと重症化する場合があります。

e. 心不全:

透析療法では透析のたびに体内に水分が蓄積し透析で除去することを繰り返しています。そのため多い人で3〜5kgも体重が変化してしまいます。この水分量の変化が長期間続くと心臓に大変な負担になり、時には心不全になる場合もあります。また体内に蓄積している尿毒素自体も心臓の筋肉に悪影響を及ぼしますので、動脈硬化もあり心臓の機能が低下する場合があります。

f. 悪性腫瘍:

長期の透析を受けている方は、悪性腫瘍の発生の危険性が一般の方より高いことがわかっています。その原因のひとつとして尿毒症物質の中の一部のものに発癌作用があるとためと考えられています。

g. シャント不全:

血液透析を行うためには血液が出入りするための血管を確保しなければいけません。はじめは腕の手首付近に内シャントといわれる動脈と静脈を吻合した手術を行い、このシャントからの血管に針を刺し透析を行います。ところが長期透析をしているうちにこの血管が細くなったりつまったりして透析に使えなくことがあります。血管には限りがありますから、何度かつまったりしているうちにつかえる血管がなくなってしまう場合があります。これをシャント不全、シャントトラブルと呼び、透析継続の障害になる場合があります。

h. 硬化性腹膜炎:

腹膜透析を継続していると腹膜が厚く硬くなりひどい場合は腸も含めておなかのなかで腹膜が一塊に硬くなる場合がときにあります。これを硬化性腹膜炎といい、腹膜透析が継続できないばかりか食事の通過が不良になり腸閉塞を引き起こす場合があります。

腎移植とは

腎移植とは機能低下した腎臓の代替として、新しい腎臓を手術で移植することにより、腎機能を回復させる方法です。腎臓を、亡くなったからいただく献腎移植とご家族からいただく生体腎移植があります。腎移植は透析療法と比べ腎臓の生理的機能を代行するという意味では優れています。しかし問題もあり、それは腎臓の提供者が必ず必要ということです。献腎移植を希望する場合には、日本臓器移植ネットワークに登録を行います。腎臓の提供者が現れた場合、登録されている方の血液型と白血球の血液型との適合度を調べ、適合度の高い人に腎臓が移植されます。しかし献腎移植の1年に行われる数は約200例と登録者数1万人と比し大変少ない件数となっています。

以上のように一度末期腎不全に陥ると透析やその合併症で生活の質が落ちてしまう場合が多く、また理想的な治療である腎移植も限られた人しか受けることができないのが現状です。こうしたことから腎機能低下が3カ月続くいわゆる慢性腎臓病といわれる状態の方を、いかに末期腎不全へ到らないようにするかが、腎臓病専門医の中では最重要課題となっています。 いわき泌尿器科では、腎臓病専門医を中心として看護師、栄養士とともに連携し、薬物療法や食事療法による末期腎不全の予防に取り組んでいます。腎臓病といわれた方や腎臓病でお悩みの方は、お気軽にいわき泌尿器科外来を受診してください。

またメールでのご相談も随時受け付けております。

<コラム担当> 医師 新村浩明