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停留精巣(停留睾丸)とは、精巣が出生時に正常な位置=陰嚢内に位置しない状態のことをいいます。新生児の約2から5%の男児が、一方または両方の停留精巣を認めるとされています。37週以前の早期出生児では、より停留精巣が認めやすいことが分かっています。
精巣は、胎児期に腹部で形成され、出生の2か月前ごろより次第に陰嚢へ下りてきます。停留精巣は、この精巣が陰嚢に下りる過程が途中で停止したか、または下りる過程の中途であることが考えられます。
停留精巣の多くは、出生後の数カ月で自然に精巣が陰嚢内に下りて正常になります。しかし、その後も停留精巣の状態が続く場合は、手術によって精巣を陰嚢内に固定する必要があります。
停留精巣の症状は、陰嚢内に精巣を触れないこと以外特別な症状はありません。停留精巣は、乳児検診で見つかることがほとんどです。乳児検診の際、医師は触診で、陰嚢内の精巣の有無を診察します。精巣は、正常でも容易に鼡径部に上がってしまうため、乳児が泣いたりして診察がしづらい場合は、注意が必要です。そのため停留精巣が疑わしい場合は、日を変えるなどして何度か診察する場合があります。
停留精巣の正確な原因は不明です。遺伝的要因や母体要因、環境要因などが、胎児期のホルモンの産生や神経系の成育、体の成育に影響を与え、停留精巣になると考えられています。
低体重児と未熟児で、新生児における停留精巣の発生率が上昇することが知られています。その他、家族に停留精巣を認めた場合もその発生頻度は高くなるとされています。また母親がアルコールやタバコを摂取した場合も発生率が高くなるとされています。
停留精巣を治療せずに放置したばあい、精巣がんと不妊症のリスクが高くなることが知られています。
陰嚢内に精巣を触れず停留精巣を疑った場合、以下の検査で精巣の正確な位置を診断します。
停留精巣と診断され、生後6カ月までに改善されない場合、手術で精巣を陰嚢内に固定する治療(精巣固定術)を行います。この理由は、停留精巣の多くは6カ月以内に自然治癒し、6カ月以降には自然治癒することが少ないからです。また停留精巣の治療は、精巣がんや不妊症の発生のリスクをなるべく低くするため生後15か月までに行うほうがいいとされています。停留精巣で、精巣が未熟で機能が期待できない場合は、摘出する場合もあります。
2歳以降で、陰嚢内に精巣を触れたり触れなかったりすることがあります。これは「移動性精巣」と呼ばれ、精巣につながる挙睾筋と呼ばれる筋肉が収縮することによって精巣が挙上した状態のことです。これは正常な反応であり、このような筋肉反射は小学生まで続きます。本人がリラックスしているときに陰嚢内に左右同じ大きさの精巣を触れるのであれば停留精巣ではなく、基本的に治療は必要ありません。
以上、停留精巣に関し概説いたしました。停留精巣は、意外と注意して診察しないと分かりにくいものです。乳児検診で停留精巣が疑われた場合は、できるだけ早い時期に泌尿器専門病院で正確な診断を受けるようにしてください。上述したように、生後6カ月以降は自然治癒する可能性が低くなり、手術療法が必要となりますので、適切な時期に適切な治療を受けることが肝要となります。
<Vol.42:コラム担当>
医師 新村浩明