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急性虫垂炎(もうちょう)すこやかコラム

1.急性虫垂炎【もうちょう】とは?

 急性虫垂炎【もうちょう】とは、大腸の一番口側である盲腸(もうちょう)にくっついている虫垂(ちゅうすい)と呼ばれるミミズのような臓器が急性に炎症を起こして起こる病気です。10代から30代の好発し、発生による男女差はおよそ3:2で男性に多いとされています。

2.急性虫垂炎の症状

 急性虫垂炎は炎症性疾患ですので、発熱や腹痛といった症状を主訴に病院を受診する方が多いです。そのほか、吐き気、嘔吐、食欲低下などを伴う方も少なくありません。しかし、腹痛と発熱で最も多い病気は、いわゆる胃腸炎(感染性腸炎)であり、その症状だけで私たち医師は急性虫垂炎を強く疑うことはあまりありません。実は、急性虫垂炎には比較的特徴的な腹痛の出現の仕方があり、それを見た場合には専門医は虫垂炎を考慮した診察を行います。その特徴的な腹痛とは、「移動痛」と呼ばれ、発症初期には心窩部(みぞおち)の痛み、不快感があり、段々とその痛みが右下腹部に限局してくる痛みを指します。また、痛みは「反跳痛」と呼ばれ、腹膜刺激徴候を伴う事が多いです。

 腹膜刺激徴候を自分で判断することは一般の方には難しいと思いますが、少しの衝撃でお腹が響くように痛む、例えば歩行で足を床につくだけでお腹に響くような痛みがある方は腹膜刺激徴候が出ている可能性があります。こういった「反跳痛」「移動痛」がある若い方は医療機関に受診することをお勧めします。

3.急性虫垂炎と間違えやすい症状の病気(鑑別診断)

 症状などから急性虫垂炎と鑑別が必要な病気は以下のようなものがあります。腹痛に精通した医師が、必要に応じて検査を行い、診断を行います。特別なお願いとして、妊娠の可能性がある若い女性は必ず病院受診時に申し出て下さい。

・大腸憩室炎
・回腸末端炎 eg. Yersinia, Campylobactor, Salmonella
・骨盤内臓炎(PID)
・急性胆嚢炎
・子宮外妊娠

4.急性虫垂炎の診断

 急性虫垂炎の診断ツールとして最も役に立つ検査は腹部CT検査です。CT検査は、造影剤を使った造影CTの方が、診断能力が高いとされていますが、単純CTでもほとんどが診断可能です。また、腹部超音波検査でも診断が可能なこともありますが、超音波検査では虫垂が腫れていることや糞石があることはわかることはある一方で、穿孔しているかどうかなどは判断が難しいため、他の検査と組み合わせて使う必要があります。

 急性虫垂炎は、画像所見や症状などによっていくつかに分類されます。糞石や穿孔、反発性腹膜炎(お腹全体に膿が回った状態)を伴うものは複雑性虫垂炎と呼ばれる一方で、そういった所見を伴わないものを単純性虫垂炎と呼ばれます。また、発症から少し時間が経ち、周りに膿の部屋ができてしまったものは膿瘍形成性虫垂炎と呼ばれています。こういった分類によって治療戦略が異なるため、適切な診断を下す事が肝要です。

5.急性虫垂炎の治療

 以前は急性虫垂炎と診断されると必ず手術が行われていました。しかし、最近ではいくつかの条件を満たす場合には手術ではなく、保存的に抗生剤で治療することに対しても科学的な根拠がある事が証明されています。また、手術の方法としては開腹手術ではなく、傷が目立ちづらい腹腔鏡で行われる事が多くなってきました。

 治療の基本戦略として、まず糞石や穿孔、反発性腹膜炎(お腹全体に膿が回った状態)を伴う複雑性虫垂炎では基本的には早期手術が必要とされています。また膿瘍形成性虫垂炎では、抗生剤治療や膿瘍ドレナージといった保存的治療を行い、数ヶ月後に待機的に手術するほうが合併症が少なく、安全に取れる可能性がある事が近年指摘され、待機的な手術を行うことが増えています。

 上記のように手術が絶対的・相対的に必要な状態ではないとされているのが単純性虫垂炎で、近年では抗生剤のみの治療でも治療ができる事が証明されてきています。最近発表された論文では、抗生剤のみ治療された方を5年間の追跡したところ、約6割が再燃する事なく経過している事が示されました。一方で、4割の方では5年間のフォローの間に再燃している事から、再燃を絶対にしたくない人では手術を1回目から行うことも悪くない選択だと思われました。

 このように一口に虫垂炎と言っても治療の選択はかなり幅があり、専門医と患者さんご本人・ご家族の価値観を総合して治療を選択する事が重要だと思われます。

6.最後に

 ときわ会常磐病院では、急性虫垂炎に対して、保存的治療、手術、待機的手術のいずれも行なっております。手術が必要な場合には積極的な腹腔鏡手術を実施しています。また若い女性では、臍だけを切ることにより傷がほとんど目立たないSILS(Single Incision Laparoscopic Surgery)も可能ですのでご相談ください。急性虫垂炎に限らず、腹痛でお困りの方はいつでもお気軽に相談していただけますと幸いです。

コラム担当医師:ときわ会常磐病院 外科 澤野豊明