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新年明けましておめでとうございます。
本年も様々な情報や日常で感じたことなどを、リハビリ部一同がんばって発信してまいります。
昨年同様、当介護予防コラムをどうぞよろしくお願いいたします!
さて、記念すべき2009年の最初にまず私、作業療法士の高野栄吉から、昨年を振り返り一番印象に残った訪問リハビリテーション(以下訪問リハ)のことについて、ご紹介いたします。
当苑では、通所リハビリ・施設入所者へのリハビリ以外に、御利用者様の御自宅へおうかがいしてリハビリを行う訪問リハサービスも提供しております。訪問リハは、まさにその方の生活の中心でリハビリを行うということで、施設では味わえないようなこれまでの人生や思い出などを直に感じることができます。ですから、施設とはまた違う意味で利用者様やご家族と密度の濃い関係が築きやすいですし、それが訪問リハの大きな特長です。
そんな訪問リハとの関わりの中で昨年、とても元気な奥様が旦那様を明るく介護している御家庭2件を私が担当させていただきました。利用者様の疾患やコミュニケーション能力などは違っていても、お二方とも生活のほとんどをベッドの上で過ごされており、重度の介助を要する状況でしたが、ヘルパーなどのサービスに頼らず御家族みなさんで介護されていました。
そこで驚いたことは、介護に悲壮感が全く無いことです。訪問するたびに「この間は突然『お前にも迷惑かけるな〜』と、つぶやいたんですよ!」とか、「毎食、食べた後に、『あ〜、おいしかった』と言ってくれるんですよ」とか、日常の細やかな一言や出来事を、まるで宝物を見せるかのように報告してくださいました。その度に、聞いている私も心がほんわかする気持ちになったことを記憶しております。
そして、そのお二方も時期こそ違いますがご自身の人生を全うして、他界されました。どうしても最後のご挨拶をさせていただきたかった私は、個人的にお線香をあげにおうかがいさせていただきました。どちらのご家族様も、ご主人を亡くされた寂しさをもちろん抱えていましたが、奥様からは次々に生前の御主人の介護をしていて心がはずんだこと、楽しかったことなど幸福の記憶の数々を、涙を浮かべながらお話しされていました。
その方が亡くなられた今でも、御利用者様とご家族様の間に目には見えないけれど、心で感じた体験がご家族様の中にはまだ生き生きと存在している。そのような利用者様・御家族様と縁を結ばせていただけたことが、とても貴重な体験でした。
最近、「『健康で』長生きしたい」ということが現代人の人生最大の目標となっています。しかし生きていれば必ず年をとり、その先には多かれ少なかれ必ず体に支障が出てくるものです。
そう、年をとれば体のどこかに不具合が出てくるのは世の常なのに、生涯健康を目標にしている人にとって病気や怪我は脅威であり、もしそうなった時になか
なか現実を受け入れられないことがあります。
しかし、物の考え方次第で、そのとらえ方が変わるのではないでしょうか。
例えば、脳梗塞になったときに、「何を目標にしているのか」と尋ねると、「また倒れる前のバリバリ仕事をしていたあの時に戻りたい」、と答える方が少なくありません。現実的にその体を若返らせたり、元通りにすることは不可能です。
しかし、視点を変えれば障害を持った状態でも生き生きとした生活を送ることができれば、バリバリ働いていた時と同じことは出来なくても、気持ちとしては同じように感じることができると思います。つまり、どれだけ今の状態を楽しめるかがポイントなのです!みな誰しもその時が来てあの世に行く時、「我が人生に悔いなし!」と言える思い出・記憶を残すことが、我われの本当の課題だと思うのです。
先に紹介させていただいた2つの御家庭でも、重い障害を負った御家族を介護する現実を「家族愛」という豊かな心で接し、幸せを感じることが出来たからこそ、その空間に少しでも関わることが出来た私たちにまで、心の栄養を与えてしまうほどのパワーがありました。そのような気持ちや心の力がとても素晴らしいと感じました。
私たちは普段、今の自分の状態が当たり前として生活しています。ですから、お体が不自由な方やお話が出来ない、意識が無いなど重度の障害とともに生きていらっしゃる方々に「お気の毒に」という言葉が出てしまいがちです。確かに「自分自身では思うように動けない」という高いハードルがあり、その方を介護することは心身ともに負担がかかることでしょう。
しかし先ほどお話したお二方の御家庭のように、その空間が喜びにあふれて充実感があり幸せを感じる場所であれば、この世界のどこよりも素晴らしい場所になるということにもなるわけです。さらにそれは、ハードルを抱えた人がいなければ幸せな空間を共に分かち合うことすら出来ないことになります。つまり、ハードルを抱えていたからこそ味わえる幸せもあると思うのです。
今後、当苑の空間が少しでもそのような幸せな空間を作っていくことが、我われの目標です。そして、縁あって高いハードルを今も背負って生き抜いているご利用者様と今人生の終盤を御一緒に歩かせていただけることに、改めて感謝しております。
参考文献:『笑って死ぬために』 朝日俊彦