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みなさんこんにちは!作業療法士の高野栄吉です。今回は老年期のうつ病についてご紹介したいと思います。
いつの時代も私たちは、職場や家庭などで多くのストレスに囲まれて生活しています。現在は一生のうちでうつ病にかかる人は人口の15%にのぼるといわれており、誰でもうつ病になる可能性があります。さらに2015年には4人に1人が65歳以上の高齢化社会へと突き進んでいます。高齢者は、加齢による身体機能の衰え・配偶者との死別・退職、家族との同居から来る家庭での役割の変化など、今まで自分を支えてきた様々な事柄や環境が変化していくために、うつ病を発症しやすいともいわれています。
また現在は、認知症については多くの情報が各メディアから流れてきますが、老年期のうつ病はまだまだ認知されていません。記憶障害や意欲が低下すると高齢だからというだけで認知症と診断され、改善する可能性があるのに適切な治療を受けないまま放置されているケースも多いそうです。
このコラムを読むことで、家族や知人など大切な人がうつ病になったとき、少しでも早く気付き適切な対応ができるようになっていただければと思います。
老年期うつ病を話す前に一般的なうつ病について説明します。前述した通り、うつ病はごくありふれた疾病となっています。しかし問題は、うつ病になっていても、自分がうつ病だと自覚していないとが非常に多いという点にあります。「憂うつで苦しい、意欲がわかない」といったうつ病の症状を、「気持ちや気分が落ち込んでいるだけ」と思い込み、早期に適切な対応が行えないことが少なくありません。うつ病も早期に治療を開始すれば確実に良くなることが大半です。出来るだけ患者本人はもちろん周りの人たちが、アンテナを張ってその人の状態の把握に努めましょう。うつ病の代表的な症状を以下に挙げます。
〇 抑うつ気分
特別な理由もないのに悲しくさびしい、涙もろくなる、悲観的、口数や行動が減る、好きなこともやりたくない、決断が下せない、自分を責める、死にたくなる等、そんな状態が2週間以上続いている場合は要注意。
〇 不安焦燥感
強い不安に襲われ一人でいることが怖くてたまらない。
〇 精神運動制止
口数・行動・意欲が低下します。今まで興味があったことも無関心となり引きこもりがちとなる。
〇 身体症状
眠れない、食欲がない、便秘がち、身体がだるい、疲れやすい、性欲がない、頭痛、動悸、胃の不快感、めまい、喉が渇く等で、特に睡眠障害はほとんどのうつ病に見られる。
〇 妄想
うつ病が重症になると妄想「癌になってしまった」「財産を全て失った」「家族に迷惑をかけてしまった」など。
老年期のうつ病も一般的なうつ病とほとんど同じですが、老年期うつ病の特徴をあげると、まず、悲哀間の感情面に表れる症状は少ないですが、不安焦燥感を伴う神経症的症状や被害妄想などの症状が多いといわれています。また、老年期では知人や配偶者の死別を体験することも多く、そこから起こる深い悲観も老年期うつ病を発症させるきっかけとなることが多くみられます。もう一つの特徴として認知症によく似た症状が見られるのですが、これは次に説明します。
認知症と似た症状として、これまでに関心があったことに興味を失う、動作が極端に遅くなる、注意を集中していられない、物忘れ、時間や場所が分からなくなる等が見られます。しかし、うつ病から認知症に移行する老年期の方も多く2つを見極めることは以前ほど明確なものではないともいわれていますが、その中でもうつ病と認知症の違いを以下の表に表します。
うつ病 | 認知症 | |
記憶力 | 昔も最近も思い出せない | 昔のことは覚えている |
発症のきっかけ | きっかけがあり、いつ発症したかわかる | きっかけはなく発症時点も分からない |
病状の進み方 | 急に進む | ゆっくり |
性格 | 几帳面・真面目 | 特に傾向はなし |
知能低下 | 激しく訴える | 特に訴えない |
作業 | 出来ない | 指示されると努力する |
感情 | 抑うつ | 変化しやすい |
社交性 | ない | 表面的な社交性 |
最近は認知症の治療も進歩して、外科的治療や薬物療法など認知症そのものを治療する技術も進歩しています。しかし、まだ認知症専門の病院に手軽に受診できる状況ではないのも事実です。そんな中、うつ病に対しての治療は、現在も精神科や心療内科などのクリニックなど身近な医療機関で治療できる環境であり、認知症治療より充実しています。できるだけ早めの受診をお勧めします。
よく、人生を山登りに例えることがありますが、うつ病になることは、他人の荷物を抱え込みすぎて危険な山道から落ちかけている状態なのかもしれません。そんな状況を、主治医の先生は、登山の専門家として抱えられる荷物の量やペースを指導してくれる。そして、家族や周りの人は、その人が抱えこんでる荷物を代わりに持ち共に山頂に向かって登る仲間と例えられます。うつになったことがきっかけで、自分自身を見つめ直し本当の自分を見つけた時、周りが見えてきていつかは山頂のすばらしい景色にめぐり合えるのだと思います。
老年期にうつを発症した方は、山頂間近で息を切らして休んでいる人生の大先輩です。そんな方が、ご自身のペースでその人らしく登っていき、やがて来るすばらしい景色に囲まれた山頂に、ご自身の足で登りきり笑顔で迎えられるよう、これからも私たちは知識を持って、みんなで支え合える環境を作ることが、今一番大切なのではないのでしょうか。
参考文献)