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みなさん、こんにちは!作業療法士の木田佳和と申します。
昨年8月にオープンしました、ときわ会グループとしては2番目の介護老人保健施設である楢葉ときわ苑で働いています。天神岬に程近く、海の見える自然豊かな環境の中、利用者様中心の支援を徹底し、利用者様や地域を元気にするべく、職員が一丸となって働いております。近くまでお越しの際は、ぜひお気軽にお立ち寄りください。
さて、私の職業である作業療法士とは、心身機能回復に特化したリハビリはもちろん、「作業」を利用した介入を行い、利用者様を健康にすることができる「作業」の専門家でもあります。
そんな私がお届けする今回のテーマは、「作業と人の健康」についてです。
みなさんは、「作業」という言葉から、どのようなイメージを連想するでしょうか。手作業・農作業・土木作業など、〜作業というと、もしかしたら肉体労働的な活動を思い浮かべる方も少なくないと思います。しかし、作業療法でいうところの「作業」は、決してそのような活動だけではありません。作業療法で定義される「作業」とは、人が日常生活で行っている全ての活動を指しているのです。
人が行う「作業」は、日常の食事や排泄・更衣などセルフケアやADL(日常生活活動)と呼ばれる「身辺処理的な活動」、仕事や勉強など、自分の生活のために何かを作り出したり、社会に貢献するような「仕事的な活動」や「生産的な活動」、また、趣味や娯楽など、楽しみとして行う「余暇活動」などに分類できるとされています。人の生活は様々な「作業」で成り立っており、人が1日の中で当たり前のように行っていること、すべてを「作業」という言葉で表しているのです。
日々の生活の中で、私たちは様々な作業をして暮らしています。毎日同じ時間に同じような作業をすることもありますし、その日だけの特別な作業を行うこともあります。いつも通りの作業が、いつも通りにできたとしても、とくに気にすることはほとんどないと思います。しかし、いつも通りだと思っていた作業が、いつも通りではなかったときに、そこには何らかの感情が生まれます。
会社に出勤するために、いつもと同じ時間に車で家を出たものの、渋滞に巻き込まれて遅刻しそうになったら、イライラしてしまいます。しかし、一か八かで今まで通ったことのない脇道を利用してみたら、いつもより早く着いてしまったという体験をしたら、少しだけ幸せな気分で過ごすことができるかもしれません。車を運転して会社へ出勤するという一連の習慣化された「作業」でも、渋滞という「環境」によって「人」の心に影響を与えているのです。人が「作業」に従事するということは、「環境」と相まって様々な感情が芽生えてくるものなのです。
遊びや趣味的な作業をしているとき、時間が経つのを忘れて作業に没頭してしまったということは、どなたでも経験したことがあるのではないでしょうか。また、大切な家族のために心を込めて作った料理が大好評だったときなどは、幸福感で心が満たされ、次はもっと喜んでもらえるように頑張ろうと思うことでしょう。人は自分にとって楽しめる、あるいは、大切で意味のある作業を行うことで、爽快感や充実感に満たされるでしょうし、元気をもらえる場合も多いと思います。その反面、自分にとって全く無意味で嫌な作業をやらなければいけなくなると、気分は沈み、元気が奪い取られるような感覚に陥ったりもします。
日常生活の中で私たちが行っている作業は、私たちの生活にやりがいや潤いをもたらすこともありますが、ストレスや悩みの元になることもあります。「作業」は私たちの健康に多大な影響を与えているのです。
病気やけがをしないことが健康につながるというわけではなく、人は意味のある作業に従事して、その作業の結果から満足感や充実感を得て、はじめて健康であることを実感するものなのです。つまり、その人にとって意味のある「作業」をすることで、人は健康になることができるのです。
以前私がリハビリを担当した方で、病気で体が不自由になり、「もう何もできない」「死にたい」というような悲観的な思いから抜け出せなくなってしまった方がいました。時間をかけてお話を伺っていくと、この方にとって大切で意味のある作業が、「主婦として家族のために働くこと」であることが明らかとなり、それ以降、機能回復訓練の他に、調理や掃除などの家事動作訓練を追加することにしました。病前と同じように行うことは困難でしたが、環境を整備し、現在の能力に合わせたやり方を身に付けることで、悲観的な思いに支配されていた姿から脱却し、徐々に笑顔を取り戻すことができました。結果的に自力歩行の獲得には至りませんでしたが、今でも家の中を車椅子で自操しながら、主婦として慌ただしくも充実した日々を送っているそうです。
みなさんにとって、大切で意味のある「作業」は何ですか?ぜひ考えてみてください。そして、その作業を実行してみてください。その先にはきっと、生き生きとした自分らしい人生が待っているはずです。
参考文献
「作業」って何だろう 吉川ひろみ 医歯薬出版株式会社