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介護予防の視点介護予防の視点

Vol.55 明るさを保って快適に!





みなさん、こんにちは。理学療法士の秋山真衣美です。2月に入り、ますます寒さが厳しくなっていますね。冷え性の私は生姜のはちみつ漬けを飲み、運動をして、「冷え」と戦い、毎日を過ごしています。皆さんはどのようにして寒さを乗り切っていますか?

さて今回、私は「加齢に伴う視覚の変化における住環境への配慮」についてお話したいと思います。視覚は外界からの状況を把握するために重要な役割を持っています。つまり、私たちが日常生活を送るために、眼からの情報がとても大切なのです。ここでひとつ例を挙げます。

私たちは立っている状態を保つために、眼や皮膚など様々な部位から、自分自身の体がどのような姿勢になっているかという感覚情報を脳へ伝えます。そして、その情報を脳がまとめて、立っている状態を保つためにはどうすればいいかを手や足などの筋肉へ伝えることによって、姿勢を保ちます。姿勢を保つための情報の約80%は視覚より得ると言われており、立位で眼を開いた状態と閉じた状態では50%以上も身体の揺れが大きくなるとされています。

そこで、視覚の大切さを知っていただき、日常生活をより安全に過ごすために明るさのポイントをお伝えできればと思います。

以前、私はvol.46「ストレスと老化」の関係で老化についてお話ししました。視覚も例外ではなく、加齢によって変化していきます。では、加齢によって視覚にはどのような変化が起こってくるのでしょうか…?

視覚は眼球を構成している水晶体や瞳孔の大きさを調節する虹彩、水晶体の膨らみを調節する毛様小帯などの変化によって、様々な症状が現れます。

例えば…
近くの物にピントが合わなくなる(老眼)
視力が低下する ・視野が狭くなる
暗いところで見えにくくなる
暗さに慣れるまでに時間がかかる

みなさんがよく耳にする機会が多いのは老眼でしょうか。老眼は、程度の差はありますが、誰にでも起こると言われています。原因は水晶体の膨らみを調節する毛様小帯の筋力低下で、近くの物にピントが合わなくなる症状で、40代前後で現れてきます。

また、この年代は緑内障や白内障など、眼の成人病と呼ばれる病気が多くなってくる年代でもあり、その他にも高齢者に多い病気として糖尿病性網膜症や黄斑部変性症・網膜色素変性症などがあります。

◇ 緑内障

眼圧が異常に高まって視神経が圧迫されることにより、視野が狭くなる・視力が低下する。

[見え方] 暗い場所で物が見えにくく、症状が進むと求心狭窄が出現する。

◇ 白内障

水晶体の白濁で、水晶体を透過する光の量が減り、網膜に到達する光量が減少し、視力が低下する。

[見え方] 物が見えにくくなり、かすみ、光が眩しいなどの症状が出る。

◇ 糖尿病性網膜症

糖尿病の合併症の1つで、高血糖の状態が長く続くことで、網膜出血や硝子体の出血を繰り返して、進行すると失明する恐れもある。進行過程で視力の低下や視野欠損部分が増えてくることがある。

[見え方] 物がかすむ、羞明があり、コントラストの低いものは見えにくくなる。

◇ 黄斑部変性症

網膜の黄斑部という場所が変性する。

[見え方] 視力が落ち、視野の中心部がぼやけたり、ゆがんだり、見えなくなる。明るい場所では眩しく感じる。

◇ 網膜色素変性症

網膜の視細胞が障害を受けておこる。

[見え方] 視野狭窄が出て、早期から明暗が弱くなり、暗順応の弱くなる。



このように加齢や病気などによって視覚は変化してきます。その症状は多様であり、住環境を整備する上では、症状によって配慮するポイントが異なってきます。そのため、今回は照明などの明るさにポイントをおいて、住環境整備についてお話したいと思います。

加齢による視力低下は水晶体の白濁や縮瞳傾向によって、取り入れる光の量そのものが減ることが原因となっています。そのため、視覚機能低下を補うためには、明るくすることが必要となります。ある報告では「70歳代の高齢者は20歳代の若年者に対して3.5倍前後の照度で網膜上に達する光量が同量になる」としており、明るさを確保することは重要です。しかし、高齢者は明るさに対する感度が場所の明るさに対応して変化する機能が低下しているため、眩しくなり、同時にかえって見えにくくならないよう配慮することも必要となります。

*行為や場所によって明るさを変える

単純に照度が何倍ということではなく、行為や場所によって適正な明るさを変化させることが大切です。例えば、読書などの視作業を伴う場合は若年者の2〜3倍の明るさ、室内全体を照らす全般照明は1.5倍程度とし、明るくしすぎないような配慮が必要です。

*間接照明を取り入れる

眩しさという観点から考えると、光源を直接見ずに明るさが得られる間接照明は有効です。間接照明は直接照明に比べて効率は悪いですが、内装色との組み合わせによっては、視覚的な明るさを得ることができます。間接照明の中でも、天井面を柔らかく照明するものは、全般照明としての明るさを確保することが可能です。

*周りの環境で明るさは変わる

明るさは照明器具だけではなく、周りのインテリアの色など環境にも左右されます。濃い色の床などでは照度が十分でも明るく見えないことがあるため、反射率の高い明るい色を使用することで、より明るい環境を作ることができます。

*各場所の明るさは同じくらいに

先ほども書きましたが、高齢者は順応という明るさに対する感度が場所の明るさに対応して変化する機能が低下しているため、各室間や廊下・階段などの照明の明るさを同じくらいにすることも重要となります。

今回、ご紹介したのは「照明の明るさ」についてですが、住環境を整備するポイントはまだまだあります。機会があれば、他のポイントのついてもお話したいと思います。

住環境を整えることで、より安全により快適に生活していきましょう。

【参考文献】

  • Q&A高齢者の住まいづくりひと工夫:日本建築学会 中央法規
  • 住まいのQ&A高齢者対応リフォーム:片岡康子・貝塚恭子・小池和子 井上書院
  • まるごと覚える福祉住環境コーディネーター2・3級:相良二郎 新星出版社
  • よくわかる最新医学 新版 白内障 緑内障 糖尿病性網膜症:村松邦彦・杉田美由紀 主婦の友
  • OT・PTのための住環境整備論:野村歡・橋本美芽 三輪書店

介護老人保健施設 小名浜ときわ苑

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