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腎臓栄養学を学ぼう腎臓栄養学を学ぼう

「低たんぱく食療法」とは

近年よく耳にする『糖尿病』、その患者数は年々増加の傾向にあります。
当院で新たに人工透析を導入なさる患者さんのおよそ半数が、糖尿病の合併症である「糖尿病性腎症」といわれています。

治療方法として、食事療法・運動療法・薬物療法などありますが、薬物療法を行なっているからといって食事をおろそかにすることはできません。
糖尿病治療の最も基本となるのが、カロリー制限を中心とした食事療法です。
その継続によって合併症を予防することが、何よりも大切です。

しかし不幸にも糖尿病性腎症になってしまったら…。
少しでも腎機能を維持するためには、たんぱく質を個人に合わせて制限した、「低たんぱく食療法」が必要となります。

「低たんぱく食療法」とは。
その意義は、悪くなった腎臓に負担をかけないように、低たんぱく食にして、腎機能低下の進行を防ぐことにあります。
食事療法で腎機能そのものが治るということはありませんが、腎機能低下の進行を遅らせることができます。

1:糖尿病食との大きな違い

エネルギー制限と食塩制限に加え、たんぱく質を制限します。

2:食糧構成

食事療法は疾患に合わせた食糧構成をもとに献立を作成していきますが、低たんぱく食には食糧構成がありません。

3:摂取エネルギー量の設定

標準体重から算出します。
しかし、体たんぱく質(筋肉)量や体脂肪量の経過を観察し、体たんぱく質量が減少してくるようであれば、エネルギー摂取状況の確認や増加を検討します。
たんぱく質制限のため、たんぱく質の少ない食品で、十分にエネルギーを摂取します。
そのためには、治療用特殊食材の利用が不可欠となります。

4:摂取たんぱく質量の設定

腎機能の低下の進行状況により設定します。

食塩:

腎機能低下を促進させる高血圧の予防のため、一日摂取量を5〜7gにします。

低たんぱく食は、食事療法の中でも特に厳しい食事制限の部類に入ります。
しかし、私たちときわ会管理栄養士がめざす食事指導とは、まずい食事を強要するものでも、食の楽しみを患者さまから奪ったりするものでもありません。
薬物療法など異なり、食事療法は、患者さまご自身が実行するもので、患者さま自身が治療者でもあるのです。
病気を知り、食事制限を理解いただいたうえで、患者さまとご一緒に、日々の食生活を少しでも豊かにし、苦しい食事療法を有意義なものにするお手伝いをしたいと思っております。

糖質について

「低たんぱく食事療法」を実際におこなっている患者さんからよくご相談を受けるのは、『指示エネルギーを十分に摂取するのが難しい』ということです。
たんぱく質を控えた食事といいますと、肉や魚や牛乳の量を減らします。
そうすると同時に一日の総摂取カロリーも減ってしまいます。
低たんぱく食ですからたんぱく質を減らすことが目的ですが、同時に指示エネルギーをしっかり摂ることも大切です。
エネルギーが不足すると、たんぱく質の分解や合成が阻害され、制限したたんぱく質の利用効率が悪くなってしまい、結果として栄養障害が生じます。
したがって、たんぱく質を含まずエネルギーのある食品を上手に取り入れる ことが大切です。

エネルギーがあってたんぱく質の無い食品は「油脂類」と「糖質」です。

そこで、今回は糖質をとりあげたいと思います。

糖質は単糖類、二糖類(少糖類)、多糖類に分けられます。

単糖類とは、それ以上分解されない簡単な化合物です。
ブドウ糖、果物や蜂蜜に含まれる果糖です。二糖類(少糖類)とは、単糖類が二つ繋がった化合物です。
砂糖や水あめ(麦芽)、哺乳類の乳汁に含まれる乳糖です。
多糖類とは、単糖類が多数繋がった化合物です。
穀類やイモ類に含まれるでんぷんや筋肉に存在するグリコーゲンです。

糖質の摂り過ぎ

糖質は1g = 4kcalです。
過剰摂取は過剰エネルギー摂取となり、余分なエネルギーは体脂肪になります。
そして肥満へ…。
また、中性脂肪値も上昇させます。

糖質の摂取不足

テレビや雑誌等で『過剰』についてはよく目にしますが、不足についての情報はなかなか目にしません。
ダイエットと称してご飯等の主食を召し上がらない方がいます。

主食となる米や小麦は糖質です。
しかし、糖質は我々の身体に必要不可欠な大切な栄養素です。

神経や赤血球はブドウ糖がエネルギー源で、脳はブドウ糖を唯一のエネルギーとしています。
筋肉はグリコーゲンを蓄え、運動時に使います。
筋肉の持続とグリコーゲンの量は強い関係があり、筋肉の活動にグリコーゲンは必須です。

さて、以上述べた中でたんぱく質を含まない『食品』としてあるのは、砂糖とでんぷんです。
砂糖や果糖は摂りすぎると中性脂肪の合成を促進させます。
でんぷんはいろいろな酵素により吸収される単糖類に分解されます。
そのため急激な血糖や中性脂肪の上昇がありません。

また、砂糖は調味料ですから摂取量に限界があります。
その点、でんぷんは片栗粉、コーンスターチ、春雨、くずきりとして存在していますので利用に幅があります。

でんぷんにもそれぞれ性質がありますので特性を利用し美味しく調理して下さい。
吸湿性は高いのですが、過熱しつづけたり、温度が下がると粘度が下がる『片栗粉』は、あんかけ料理や汁物のとろみに。
吸湿性は低いのですが、過熱しつづけると粘度が増し、温度が下がっても粘度は変わらない『コーンスターチ』は、ブラマンジェやカスタードクリームなどのお菓子に。
サラダや揚げ衣には春雨を。
鍋物や麺料理にするなら葛きりや緑豆春雨が合います。
また、低たんぱく食事療法用の特殊食材として、米や麺や餅もそれぞれのでんぷんの特性を活かし原料としています。

脂質について

『低たんぱく食事療法』で一日の総摂取カロリーを確保するため、たんぱく質を含まずエネルギーがある食品の脂質についてご説明いたします。
油脂は3大栄養素(脂質・糖質・たんぱく質)の一つであり、9kcal/gと1gあたり一番大きなエネルギー供給源でもあります。
常温で液体のものを『油』、常温で固体のものを『脂』といいます。

油はとりすぎると高カロリーですので、肥満の原因になります。
油は植物性と動物性の2種類あります。
特に動物性脂肪は悪玉コレステロール(LDL)や中性脂肪を増やし、ドロドロ血液の原因となってしまいます。
それは、様々な生活習慣病を発症させます。冠動脈心疾患、脳血管疾患、糖尿病、高血圧など…。

油脂の種類

大きく分類すると動物性と植物性があり、構成する脂肪酸『トリアシルグリセロール』と『グリセリン化合物』の割合に違いがあります。
主な動物性脂肪はヘッド(牛脂)、ラード(豚脂)、バター等。
主な植物性油脂はオリーブ油、紅花油、コーン油、シソ油等。過剰に摂取すると肥満や生活習慣病の原因となる脂肪ですが、適量の摂取で効果的に機能します。

油脂の働き

油脂も糖質と同様に、マスコミでは何かと悪者にされがちです。
しかし、油脂の摂取が不足すると栄養素の不足や免疫力の低下を招きます。
油脂は血管のしなやかさを保ち、脳卒中を防ぎます。脂溶性ビタミンの吸収にも必須です。

コレステロールには善玉と悪玉と2種類あり、植物性油脂のオリーブ油には悪玉コレステロールを取り除くオレイン酸が多く含まれます。
ごま油のように活性酸素を抑制し、老化 防止の効果のあるものもあります。
サンマやいわしなどの魚に多くに含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)・DHA(ドコサヘキサエン酸)は血液をサラサラにしたり、脳の働きを良くする働きもあります。
DHAと他の脂質との大きな違いは、脳にまで運ばれるというところです。
脳の中には必要なものしか入れません。

また体内で合成できない脂肪で必須脂肪酸というのがあります。
食品から摂取しなければならない脂肪酸で、細胞膜やホルモンの材料となる大切な栄養素の一つです。
リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、α‐リノレン酸、EPA、DHAです。
欠乏すると皮膚炎、体力不足になります。

和え物や風味づけにはごま油を、サラダにはオリーブ油やナッツ油を、ソテーにはバター…等など、料理に合わせた油脂を使ってみてはいかがでしょうか?
油脂のさまざまな働きを取り入れるとともに、油脂の風味を活かすことにより、効果的に減塩することができます。

低たんぱく質食事療法のポイント

慢性腎不全(CKD)の診断を受けた患者さんは、どの段階から低たんぱく質の食事療法を実施していったほうがよいのでしょうか?CDK診察ガイド(日本腎臓学会編)に定められている目安時期は、GFR(腎臓ろ過機能)で59〜30/ml/minのステージ3以降です。

このステージ3以降の食事療法のポイントを当院の外来で使用しているオリジナルパンフレットに掲載しておりますので、これを参考に復習してみましょう。

いかがでしたか?
患者さん自身が実践されていた食事内容を再確認できましたでしょうか?

低たんぱく食の調理例

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